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長野家庭裁判所 平成5年(少)582号 決定

少年 T・O(昭50.12.4生)

主文

少年を長野保護観察所の保護観察に付する。

道路交通法違反保護事件のうち、平成5年10月14日午前11時20分ころの中野市○○×丁目×番××号先道路における整備不良車の運転については、少年を保護処分に付さない。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、

第1  A及びBと共謀のうえ、平成5年10月上旬のころの午後11時ころ、中野市大字○○××××番地×北側駐車場において、同所に駐車中の自動二輪車(登録番号○○ま××××)から、C所有にかかる前照灯1個(時価3000円相当)を窃取した

第2  平成5年10月14日午前11時20分ころ、長野県中野市○○×丁目×番××号先道路において、公安委員会の運転免許を受けないで、かつ、運輪大臣の行う検査を受けず、有効な自動車検査証の交付を受けないで、自動車損害賠償責任保険の契約が締結されていない自動二輪車(ホンダ400CC・車体番号NC××-×××××××)を運転した

第3  運転の業務に従事するものであるが、前記日時ころ、前記場所の交通整理の行われていない交差点手前を、○○△方面から△△○方面に前記車両で時速約60キロメートルで進行するにあたり、交差点手前に停車している車両があり、かつ、○○警察署司法巡査Dが停止車両の前方を左方から右方に出て少年に対して停止合図をしていたことを認識していたのであるから、追越しをやめ、同巡査の位置の手前で一時停止すべきだったのに、同巡査の停止合図を認めるや、同巡査が更に右方に出て少年運転車両を停止させることはないと軽信してあえて停止車両を追い越して同巡査の右横をすり抜けて進行しようとした過失により、同所付近で、更に右方に出て少年運転車両を停止させようとした同巡査に自車を接触、転倒させ、よって、同巡査に通院約2週間を要する左下腿打撲擦過傷及び右手打撲の傷害を負わせた

第4  前記第3の交通事故を起こしたのに、直ちに車両の運転を中止して、被害者を救護するなどの法令で定める必要な処置を講ずることなく、かつ、その事故発生の日時場所等法令に定める事項を直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかったものである。

(法令の適用)

第1の行為につき 刑法235条、60条

第2の行為のうち無免許運転につき 道路交通法64条、118条1項1号

無車検車の運転につき 道路運送車両法58条1項、108条1号

無保険車の運転につき 自動車損害賠償保障法5条、87条1号

第3の行為につき 刑法211条前段

第4の行為のうち救護義務違反につき 道路交通法72条1項前段、117条

報告義務違反につき 同法72条1項後段、119条1項10号

(処遇の理由)

第1非行事実の認定

1  第1の行為、第2の行為のうち無免許運転の点と無保険車の運転、第4の行為については、少年は自白しており、補強証拠も存在するから上記認定の事実が認められる。

2  第2の行為のうち、無車検車の運転について

検察官は、平成5年10月22日付け送致書で、少年運転車両が、自動車登録ファイルに登録を受けるべき自動車であることを前提として、少年が、前記無免許運転及び無保険車運転の行為と同一日時場所において、自動車登録ファイルに登録を受けないで本件車両を運転し、もって道路運送車両法4条、108条に違反したとして事件を送致してきた。

しかし、本件の車両は、250ccを超える自動二輪車であるから、道路運送車両法施行規則第2条、別表第1の「二輪の小型自動車」に該当するところ、自動車運送車両法4条は、「二輪の小型自動車」を適用の対象から除いているのだから、本件車両は自動車登録ファイルに登録を受けるべき自動車とはいえない。

検察官は、自動車免許に関する定義規定である道路交通法施行規則19条、別表2が、「小型二輪」を総排気量0.125リットル以下の自動二輪車と定義していることから、250ccを超える自動二輪車については「二輪の小型自動車」ではないと思い込み、道路運送車両法施行規則第2条、別表第1の定義がこれと異なることを精査しないで、漫然と事件を送致したものと推測される。

もっとも、記録によれば、少年は、道路運送車両法58条1項に定める自動車の検査を受けず、したがって、有効な自動車検査証の交付を受けないで前記車両を運転したことが認められる(被疑車両の車検の有無について(回答)と題する電話聴取書2通によれば、○○陸運支局の担当職員は無登録であるという点ではなく無車検であることについて回答していることが明らかである。)。この事実と、検察官が送致した事実とは、運転行為以外の構成要件要素は車両の属性に関するものにすぎず、両者は、基本的な構成要件要素である運行の点で、同一日時場所においての行為を取り上げたものであるから、社会観念上基本的事実が同一であると評価できる。したがって、上記認定の事実は、検察官が送致した事実と同一性を有するから、事件として別個立件することなく、家庭裁判所においていわゆる認定替えをすることが許されるものと解するのが相当である。

よって、前記第2のとおり無車検車の運転の事実を認定した。

3  検察官が送致した整備不良車の運転の事実が認められないことについて

(一) ハンドルの整備不良が認められるかについて

道路交通法62条は、「その装置が道路運送車両法第三章若しくはこれに基づく命令の規定……に定めるところに適合しないため交通の危険を生じさせ、又は他人に迷惑を及ぼすおそれがある車両等を運転してはならない。」と規定し、道路運送車両法41条、道路運送車両の保安基準(昭和26年運輸省令第67号・以下「保安基準」という。)11条1項は、かじ取り装置につき、堅ろうで、安全な運行を確保できるものであること(1号)、運転者が定位置において容易に、かつ、確実に操作できるものであること(2号)、かじ取時に車わく、フェンダ等自動車の他の部分と接触しないこと(3号)、かじ取りハンドルの回転角度とかじ取り車輪のかじ取角度との関係は、左右について著しい相異がないこと(4号)、かじ取りハンドルの操だ力は、左右について著しい相異がないこと(5号)を要求している。

ところで、当庁に送致された事実は、別紙記載のとおりであり、検察官は、純正のかじ取りハンドルを取り外してセパレ一トハンドルを取りつければ、当然に、〈1〉「容易に、かつ、確実に操作できる」とはいえず、保安基準11条1項2号に違反することになり、かつ、〈2〉交通の危険を生じさせ、又は他人に迷惑を及ぼすおそれがある車両に該当することになるとの理解を前提として(もっとも、送致書には〈2〉の要件が摘示されておらず、意識的に検討されていなかった可能性もないではない。)、整備不良車の運転の事実を送致したことが窺える。

しかしながら、前記保安基準の要件に照らすと、セパレートハンドルといえども、それが通常のハンドルと同様の操作性を有する場合には、保安基準に違反しないはずであるから、道路交通法違反があったとするためには、当該車両がどのような意味で保安基準に反するかを具体的に特定して証明することが必要なものと解するのを相当とする(平成6年4月8日付け電話聴取書によれば、運輸局でも、当該車両のハンドルがセパレートハンドルであることがら、直ちに保安基準に違反することになるわけではないとの解釈を採用していることが窺われる。)。のみならず、道路交通法は、当該車両が交通の危険を生じさせ、又は他人に迷惑を及ぼすおそれがあることも構成要件としている以上、当該車両の改造箇所とこのような危険またはおそれの関連性が明らかになる程度に改造の内容を具体的に特定して証明する必要があるものと解するのを相当とする。

この点、少年は、一貫して純正のかじ取りハンドルを取り外してセパレートハンドルを取りつけたこと自体は認めているものの、審判廷において、本件車両のセパレートハンドルが、容易に、かつ、確実に操作できるものかどうか、交通の危険を生じさせるようなものか否かについては、よく分からない旨陳述し、記録上、捜査官がこの点についての弁解を求めた形跡も窺われないから、少年は、違反事実の全てを自白しているわけではない。そこで、本件において上記のとおりの証明がされているかについて検討を加える。

記録によれば、少年は、本件車両に、ハンドルの角度を自由に変えられるように、左右別々にハンドルの末端部を本件に接続するいわゆるセパレートハンドルを、多少上向きに取り付けたことが認められる。このようなセパレートハンドルを取りつける目的としては、レーサーのように左右のハンドルの角度を鋭角的にすることができるようにすることなどが考えられる。このような場合であれば、ハンドルがタンクに当たったり、角度が小さいことによって操作困難になることが考えられるが、平成5年10月25日付け実況見分調書によっても、本件のセパレートハンドルは、左右のハンドルの角度が通常のハンドルのそれと対比して著しく異なるものとは断定し難く、かえって、タンクにあたるような角度には取りつけられていないことが認められる。また、ボルトが緩いなど、取りつけ方に不良がある場合は、確実な操作ができないと考えられるが、記録上、取りつけ方に不良があるか否かは明らかでない。ハンドルが上向きになっている点についても走行試験等がされておらず、容易かつ確実に操作できるものか否かは判然としない。

以上のような点について、詳細な実況見分をし、陸運支局等に走行試験を依頼したり、車両自体又は詳細に記載された実況見分調査を提供して簡易鑑定を依頼するなどの方法により保安基準に違反する具体的内容を証明することは不可能ではないと考えられる。本件においても、捜査機関においてこのような点の捜査を尽くすべきであったと考えられるが、記録によれば、本件車両は、平成5年11月5日に少年の母親に還付されたこと、押収品目録や本件車両の実況見分調書(同年10月25日付け)が当裁判所に送付されたのは、同年11月11日であり、翌12日の審判期日(第1回)において本件車両について両親が教育的見地から業者に依頼して本件車両を廃棄したことが明らかとなったこと、以上の事実が認められる。そうすると、第1回審判期日において、既に補充捜査で以上の点を明らかにすることは困難になっていたといわざるをえない。

したがって、前記説示の証明はされていないといわざるをえず、本件車両のハンドルの改造が、保安基準に違反し、交通の危険を生じさせる内容のものであるとはいえない。

(二) 他の改造箇所についての違反の有無の検討

記録によれば、少年は、前記改造に加えて、〈1〉前照灯の位置を高くしたこと、〈2〉消音器を切って排気音が大きくなるように改造したこと、〈3〉この改造前から本件車両には、左側の後写鏡が装備されていなかったことが認められる。

ところで、〈1〉保安基準32条2項6号は、前照灯の取りつけ位置は、地上1.2メートル以下とすべきことを規定し、〈2〉同30条1項は、保安基準別表二に定める方法により測定した定常走行騒音及び排気騒音の大きさがそれぞれ85ホンを超えない構造でなければならないことを規定し、〈3〉同44条1項ただし書は、自動二輪車の後写鏡につき左右外側線上後方50メートルまでの間にある車両の交通状況を確認できる後写鏡を備えつけなければならないと規定しているから、道路交通法62条を適用するためには、これらの点についての実況見分、簡易鑑定等による証明が必要不可欠である。

ところが、本件車両につき補強証拠となるようなものはなく(特に、〈2〉の点は、測定装置によって違反の有無を容易に判定できるのに、捜査機関は測定を行っていない。本件については、前記の法令の適用の誤解など、捜査上の手落ちが多いといわざるをえない。)、もはや、補充捜査によって違反の有無を明らかにすることも困難である。

他に、保安基準に違反するような内容の改造箇所は見当たらない。

したがって、本件車両が整備不良車に該当するとの証明がされていないといわざるをえない。

以上の次第で、道路交通法違反保護事件のうち、別紙記載の整備不良車の運転の点については、非行事実の証明がないから、この事実については少年を保護処分に付さないこととする。

4  業務上過失傷害(前記第3)の成否について

(一) 検察官の平成5年10月22日付け送致書に記載された過失内容は、「交差点手前に停止している車両があったのであるから、運転者としては、横断歩道の手前で一時停止し、横断者の安全確認をし進行すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り漫然と停止車両の右側方を時速約60キロメートルで進行した」というものであり、少年が横断歩道が存在していたことを認識していたことを前提とした事実が摘示されている。

しかし、少年は、交差点があることは知っていたが、横断歩道があることは知らなかったと一貫して供述し、記録によれば、少年は、本件交差点付近がはみ出し追越し禁止の区間であるのに、標識や中央線(黄色)等に注意せずに進行していたことが認められるから、横断歩道の存否についても、標識や路面上の警告(◇のマーク)等に注意せずに運転していた可能性を否定できない。そうすると、少年が横断歩道があることを知らなかった可能性を否定できないから、横断歩道があることを知らなかったとしても、なお、過失があったといえるか否かを検討するべきである。

ところで、交差点の手前で追越しをすることは禁止されていることや(道路交通法30条3号)、車両等は警察官等の手信号等に従わなければならないとされている趣旨(同法7条)を考慮すると、運転者が交差点において警察官が停止の合図をしていることを認識している場合、それが不合理なものではない以上、警察官の位置に横断歩道が存在することを認識していなかったとしても、停止の合図に従って、一時停止すべき義務があると解するのが相当である。

これを本件についてみると、記録によれば、〈1〉少年は、交差点手前で運転車両の前方に停止車両2台があり、その前方を左方から右方に出て自分に対して停止するよう合図していた警察官を認めたこと、〈2〉その停止合図は、当日の幼稚園児に対する交通安全教室で横断歩道の渡り方を教え、実際に横断をさせる必要上なされたもので、不合理なものとはいえないこと、〈3〉少年も、その合図が不合理なものとは感じていなかったが、停止後事情を聞かれたりすることにより無免許運転が発覚することを恐れ、警察官が更に右方に出てくることもないと考えて、警察官の右側をすり抜けて逃走しようとしたために、敢えて警察官の手前で一時停止をしなかったこと、〈4〉ところが、少年の予想に反して、警察官の右横をすり抜けることができずに、警察官に自車を接触させ、警察官を転倒させてしまったこと、以上の事実が認められる。

以上によれば、前記第3の内容の過失が認められる。

(二) 記録によれば、他の構成要件該当事実については、少年は自白しており、補強証拠も存在する。

したがって、少年には業務上過失傷害罪が成立する。

第2処遇選択の理由について

記録によれば、〈1〉少年は、平成4年5月24日、第1種原動機付自転車の免許を受けたが、同年6月12日ヘルメット不着用の違反をし、同年7月9日、尾灯等不良の違反をし、翌10日、ヘルメット不着用の違反をし、同月27日、定員外乗車の違反をしたこと、〈2〉同年11月22日、原動機付自転車の運転免許しかないのに自動二輪車を運転したことにより、前記免許の取消処分を受けたこと、〈3〉〈2〉の無免許運転により平成5年3月1日に当裁判所においていわゆる自庁講習を受けて不処分決定を受けたこと、〈4〉しかし、その後、2台の自動二輪車を購入し、改造を加えたこと、〈5〉少年の両親は、〈4〉の事実を知りながらこれを黙認してきたが、今回の事件で観護措置決定を受けたことから、毅然とした対応を取り始め、本件車両を両親の責任において処分し、無免許運転の土壌を断っていること、〈6〉少年は、試験観察(在宅)中、無免許運転をせず、両親も適切な指導監督をしてきたこと、〈7〉職業面でも父親の指導のもと大工として稼働し安定を見せていること、以上の事実が認められる。

以上の事実を前提に保護処分の要否について考察するに、少年の違反歴等を考慮すると、依然、専門家による指導を必要とするものの、保護的措置により家庭の監督能力が向上し、少年もそれを受け入れていることから、社会内の処遇によって、再非行を防止することが可能だと考えられる。

よって、少年法24条1項1号、少年審判規則37条1項を適用して、少年を長野保護観察所の保護観察に付することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 和久田斉)

(別紙)

少年は、平成5年10月14日午前11時20分ころ、中野市○○×丁目×番××号先道路において、純正のかじ取りハンドルを外してセパレートハンドルを取りつけたため、ハンドル操作を容易かつ確実に行うことが困難であり、法令に定める保安基準に適合しない自動二輪車(車体番号NC××-×××××××)を運転した。

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